顔のない月

ゲーム原画家/イラストレータのCarnerianさんが起こしたブランド、ROOTの
処女作となるゲーム。

この人の手になる原画のゲームは実はかなり数出ているのだが、 僕自身
今までに何作も遊んでいて、この人の絵が好きになっていたので、
この新作には注目していたのだ。

何度も発売日を延期してようやく発売された本作。
ふたを開けたら前評判どおりの大人気で限定版にはプレミアがつく始末。
かくいう自分もYahooオークションでようやく入手した口だが。

さて、ゲームのほうであるが、ひょんなことから実家である大変な名家の
当主を継ぐことになった主人公が田舎の屋敷に帰るところから始まる。
主人公は何故か女性の表情が見えないという病気を抱えていたのだが、
屋敷に着いて見ると何故か...。

こういうところから始まるADV形式のゲーム。

お話のバックボーンは、あるお山の神様とそれを守る巫女、そして山の歴史の中、
それに殉じた人々をめぐる関係。

主人公の実家のお家は大変な山奥の小さな村の独特の様式をもつ神社。
一般的な神道とは一線を画した謎めいた呪術が支配する小さな閉じた世界が
舞台となっているため、独特の雰囲気を破綻することなく表現することに
成功しているように思う。

また、閉じた世界ゆえに登場人物をとても限定できていて、それがこのゲームの
シナリオを上手にまわす舞台となっている。

とまあ、舞台装置のことは置いておいて。

良くあるパターンだが、このゲームも複数の並行する流れが用意された
シナリオにより、真実をさまざまな角度から照らすタイプの構成と
なっているのだが、あるシナリオでは謎だったキャラの行動や、謎が、
最後にはほぼ解決される形で、決着がつくようになっている。

このへんのシナリオのプロット自体はとても好きだしよく出来ていると思うんだが、
ちょっとばかりシナリオの展開に関しては舌足らずな点もあって、難解に思える
部分がなきにしもあらず。

特に主人公の秘密の部分については何度もテキストを読み返さないと
理解が難しいと思う。ちょっとだけ不満。

全シナリオをクリアしても全ての謎が解決するわけではないが、問題になる
レベルではないと思う。
(ちなみに、個人的な最大の謎は春川知美が何者か?である。)

このゲームはたっぷりのテキストで、ゆっくりと落ち着いたリズムで時が
流れるような、そんなシナリオの展開が行われていて、さらに登場人物も
少ないために、メインキャラの心情のうつろいがとてもフォローしやすい。

特にメインヒロインの倉木鈴菜の心の動きの表現は絶品じゃないかと思う。
もともと広告の段階から、このキャラに入れ込みかけていたんだけど、
鈴菜が告白するあたりの展開は最高にお気に入りだったりする。

もともと主人公はまったく面識すらない鈴菜の許婚として突然現れるわけで、
普通そんな状況下で納得して受け入れる人間なんていないだろう。
だから最初は主人公にめちゃめちゃきつく当たる。それこそ、「ハリネズミ」
のごとく。

それが次第に近づいていき最後には主人公べったり、嫉妬までするようになるところの
表現の仕方が上手いと思うのだな。

が、このゲーム、ただキャラとラブラブになるのが目的なわけじゃないので、
真のエンディングは実はまだまだ先。TRUE ENDシナリオではここでようやく
序盤が終わった程度。

その先は是非、実際に遊んでみて確認して欲しいけれど、
azure的にはとても楽しめた。
主人公と一緒に喜んで、照れて、怒って、困って、悩んでいたから。

全体として非常に満足したゲームなのだけれど、鈴菜の一ファン(笑)としては、
エンディングの落しどころが少々鈴菜にはかわいそうかな〜とも思ったり。
ハッピーエンドにしろ、トゥルーエンドにしろ、どうも別のキャラに
強い印象を取られてしまいがちな気がするから。

ハッピーエンドでは由利子に、トゥルーでは水菜に美味しいところを
取られちゃってるように思うのだがどうだろうか。
まあ、トゥルーエンドは半分、水菜エンドのようなところもあるから
仕方がないといえば仕方がないのだが...。

とりあえず、出来は非常に良いと思う。シナリオも絵も。
これは自信を持ってお勧め作品、かな。

ただし、シナリオの分岐条件は結構厄介なので、ストーリーを楽しみたい方は
攻略サイトの情報を使ったほうがいいと思う。
一本のシナリオ自体がそれなりに長めなので、自力で分岐を見つけるのは
それなりに骨だろうから。
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