月陽炎

すたじおみりすの手になるビジュアルノベル(?)。
「?」がつくのはゲームシステムが完全にノベル形式をとっているけれども、
キャラクターの台詞にはすべて声がつくから。
声ありのビジュアルノベルである。

このソフト、そのシナリオもよく出来ていると思うのだが、やはり最大の特徴は
非常に丁寧かつ凝ったつくりのプログラム、ゲームシステムにあると思う。

ゲームをスタートするとオープニングタイトルの前にプロローグがあるのだが、
そこは直前に到達したエンディングの内容によって変化する。

また、オープニングも全てプログラムで丁寧に丁寧に作りこんであって、
タイトル曲とのシンクロも完璧。このオープニングを見ただけで、
ゲーム自体の作りこみの良さも予想でき、遊ぶ気にさせるオープニングに
なっていると思う。

(オープニングの作りこみを見れば、作り手のその作品への想いが一発で
 わかるような気がする)

ゲーム中も基本は今までのノベル形式のソフトの例に倣ったシステムとは
なっているが、立ちキャラが2人表示されるときの台詞の表示位置の工夫などで
うまくオリジナリティを出せているように思う。

BGMも作品にあったいい曲が入ってる。
結構いいクオリティでエンコードされているようで、まともなステレオに
入力しても負けずにいい感じで鳴っていたのが印象的。
(サラウンドシステム使ってやるといい感じで音が広がってなんとも言えず、
 気持ちがよい ^^)

また、SEもそれに負けじとよくがんばっている。
台詞もそうなんだが実はかなりちっちゃなレベルの音まで収録されていて、
ものによってはPC自体のファン音などのノイズにかき消されて聞こえないかも
しれないような、その小さなレベルのSEたち。風の渡る音であったり、
木々のざわめきであったり、遠くの汽笛であったり。

このSEたちが非常によくその場の雰囲気を醸していて、ノイズにかき消されて
しまうのはとても残念に思う。

このソフトは、シナリオ構造上繰り返し遊ぶことが必須のソフトになっているが、
繰り返し遊ぶ際の手間を省く仕組みもしっかりしていて手抜きがない。

クリアしたエンディングによって新たな選択肢が開かれるタイプのソフトなのだが、
このソフトではどのシナリオに入ることができるかを、
タイトル画面のCGまたはそこまでに取得したアイテムの一覧により知ることができる。

などなど、とにかく全ての面で手抜きがなくて、今まで手にとった中では
一番丁寧に作りこまれた作品のように思う。

シナリオは痕ライクなマルチエンディングタイプで、エンディングを向かえるごとに
新たな展開への選択肢が開かれるもの。
そして、最初は見えていなかった物語のバックボーンが全てのエンディングを
(実は1つは本編とは無関係)迎えることで見えてくる。

テキスト上の矛盾もなく、展開の無理もなく、ヘンな伏線もない。
素直にお話に入っていける。

物語が佳境に入るまでの日常の様子を冗長に思えるほどにしっかりと描いているので、
キャラ設定が合わない人以外はいつの間にかいずれかのキャラに思い入れること
請け合い。

ノベル形式で分岐も少ないため、新たに出現する分岐がわかりやすいので、
狙ってそれぞれのエンディングを見ることも容易だろう。
シナリオ重視で、攻略よりもストーリーを追いかけたい人には
久々に自信を持ってお勧めできる一本だと思う。

逆にゲーム性重視で攻略するゲームが遊びたい人にはお勧めしない。
攻略性というものは上記のとおり、ほとんどないので。

シナリオの方向性としてはいわゆる切ない系の物語で、ぼくの場合は涙腺が大決壊。
もう、ぼろぼろになっちゃいました。

個人的にちょっと不満(?)な点をあげるとすれば、完全なるハッピーエンドが
存在しないことと、シナリオオールクリアを果たしてしまうと、その後の
再プレイでは見ることが出来ないエンディングがあること、やはりオールクリア後
のことになるが、オープニングデモ前のプロローグがなくなってしまうこと、
この3点ぐらい。まあ、あまり大きな問題ではないと思う。

あとは、インストールの際にいわゆるフルインストールしか選択肢がなく、
1.5GBもディスクを食ってしまうというのが難点といえば難点か。
ディスク安くなっているから、デスクトップマシンではそれほど大きな
問題にはならないと思うが、ノートのディスクでは少々辛いかも。

でもまあ、起動にCDを必要としないという利点もあるんだけどね。

とまあ、いろいろ書いてきたけど、個人的には久々に大満足のソフト。
動作も安定してるし、安心してお勧めできます。
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