To Heart -PlayStation版- (AQUA PLUS)

PCの同名のソフトからの移植作品。
株式会社アクアプラスの初のコンシューマ作品でもある。

移植作品というのは間違いはないのだけれど、キャラクターの台詞にすべて
声があてられ、一部キャラは完全にシナリオが書きなおし。そうでないキャラも
細部に渡ってきめこまやかに手が入っているなど、単なる移植と言うよりは、
別作品、またはソフトのメジャーバージョンアップといった趣。

時間の関係でPC版ではカットされてしまったキャラが復活していたり、
オマケのミニゲームに異常に力が入っていたり、サービス満点。

キャラクターの台詞すべてに声が入ったおかげで、全く別のゲームに生まれ変わった
ようにも見えて、PC版を遊んだ人間でも十二分に楽しむことが出来る。

同社はPlayStationソフトはこれがはじめてであるにもかかわらず、
ソフトのシステムとしての完成度は非常に高い。

整理されたインタフェース、操作性、レスポンスの良さ。
PlayStationでしばしば問題となる、セーブ/ロード時間も十分に速く、
プログラムのバグもほとんどない。

ゲームはCD2枚組みであるが、音声をカットすればCD1枚だけでも遊ぶことが
出来る。CD入れ替えのタイミングで、入れ替えを行わなければ自動的に勝手に
音声offに切り替わってゲームを継続することが出来る。

主人公の名前をデフォルトのまま遊んでいれば、登場するキャラクターが
名前を呼んでくれる。などなど、どうして今まで出来なかったのか、
と聞きたくなるような、非常に基本的なところにまで配慮が行き届いている。

また、一度見たテキストは高速でスキップできるフィーチャーもそのまま
PC版から継承されており、繰り返し遊ぶことが前提となっている本作品では
プレーヤーに非常にやさしい作りである。

また、ちょっと地味なところだが、セーブデータの小ささもうれしところ。
PlayStationのメモリカードの1ブロックにシステムデータ、セーブポイントが
すべて収まり、10箇所までのセーブが可能なのだ。

これだけのクオリティのものを出してくれるのであれば、発売が延期された
こともまあ、許せなくはない。(決して誉められるものではないけれど)

PC版からは下校時の行き先表示で、誰がどこにいるのかが一見してわかるように
なったところが唯一システム上の変更点。これによってキャラの攻略は
易しくなったが、もともと希薄であったゲーム性はほとんど皆無になった。
が、「攻略」するタイプのソフトではないのでこれは大した問題ではないだろう。

キャラクターの声は恐らくPC版のファンであった人達には最大の不安点で
あったと思うのだが、ぼく的には満点をあげてもいいと思っている。
すごく良くイメージと合っていて、もともと魅力的であったキャラクターに
また新たに命が吹き込まれた、そんな感じを覚えた。

実際いろいろあちこちの情報を拾って読んでみる限りは、製作側スタッフが
ものすごいこだわりを持って声優を選び、演技の指導も直接行っていたらしい。
その苦労は見事に作品の良さとなって出ていると思う。

PC版のレビューでも書いたが、この作品の一番楽しい部分はまったくなんでもない
ごく普通の日常の何気ない会話の中にある。気のおけない仲間との何気ない
馬鹿話。そこのリアリティがこの作品の命だと思うのだ。

実際、この作品では「ギャルゲー」としては思いのほか思わせぶりな台詞は
少ない。というかクライマックスを除けばほとんどないといってもいいのでは
ないかな?

だから、クライマックスはクライマックスとして作品の核ではあるのだけれど、
仲間との楽しい、そして優しい時間をしっかり演出できているところが
この作品を好きになった最大の理由だと思うのだ。

もちろんPC版同様、キャラの立たせ方はみごとで、なぜ、どうしてこのキャラは
こういうキャラなのかというのがとても見て取りやすく、感情移入も容易。
イメージに合った声がついたこともこれをさらに助けているだろう。

なんにせよ、多くの人に安心して薦められる作品に仕上がっていて、
PC版からのファンとしては非常に嬉しい限りである。
ゲームのジャンルのせいか、注目度の割に10万本+程度しかセールスがない
というのが、非常に不思議なソフトである。
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