久遠の絆

F.O.G製のPlayStation向けノベルウェア。
メーカーはビジュアルノベルをうたってはいないけれど、その形式は
サウンドノベルというよりは明らかにビジュアルノベルそのもの。
CGの上にテキストをオーバーラップで表示する形式の「読ませる」ソフトである。

最終的には3人いるヒロインの誰かと結ばれるエンディングで、
その3人とのラブストーリーがしっとり描かれていくことから、極論して
しまえば、これもギャルゲーの一種ということなのかもしれない。
確かにキャラクターは非常に魅力的であるし。

CGも非常にレベルが高い。キャラクターのみならず、背景、イフェクト
すべてのビジュアルが非常に高水準にあると思う。
ハイレゾを使わなくてもこれだけの表現ができるってことでちょっと
驚かされたソフトでもある。(しかも、色数も基本的に256色なのだ)

しかし、このソフトの本当の魅力はそのシナリオにある。
ノベルウェアである以上、シナリオが悪ければ魅力もクソも無くなって
しまうが、このソフトは十分に期待に応えるだけの魅力がある。

はっきり言って、このゲームのシナリオはかなりの長編の部類になると思う。

ゲームのパッケージにある言葉「千年前から好きだった」その言葉の
あらわす通り、登場人物が何度も転生を繰り返しつつ織り成す物語を、
それぞれの時代ごとにそれぞれのキャラクターの心情を丁寧に丁寧に
フォローする形で物語にしている。

よって、必然的に膨大なテキストにより物語が形作られる。

いままで何種類もノベルウェア形式のソフトは遊んできているけれど、
ここまで1本のシナリオの長さ分量が大きな作品はこのソフトが初めて。
けれど、その分量を一気に読みとおさせてしまうだけの魅力が
このゲームにはまちがいなくある。間違い無くシナリオの力。

おかげで、キャラクターの人となり、心の移ろいがフォローしやすく
感情移入が容易。登場人物に簡単に思い入れてしまう。

実際、メインヒロインの登場の際、「なんだこれは?」などと思っていたのが、
いつのまにやら次第に心惹かれ、すっかりのめりこんでしまっていた。
シナリオ上で語られる主人公の心にしっかりシンクロしてしまったかたちに。

ゲームを進めていく上で(というよりは物語を読み進めていく、というべきかも)、
非常に辛いシーンも多いのだが、そこで物語を放棄してしまうのではなく、
不思議と先に向かっていく気にさせる仕向け方は見事なものだと思う。

今までにそういう辛いシーンで、ゲームを投げ出した経験のある自分としては
それは一種、不思議な感触だった。

そういえば、キャラクターの見せ方も抜群に上手いんだよね。
特にメインヒロインは、謎めいたキャラクターとして登場。
打ち解けていくうちに、真の彼女の姿を徐々に見られるようになり、
最後には、どのヒロインよりも表情豊かな、すごく素直ないい娘であるところが
見て取れるようになる。

そのプロセスと主人公が前世の記憶を取り戻して行く過程をうまく
絡めて描いてある。

もともと魅力的に設定してあるキャラクターをすごくシナリオが
上手く活かしてる。そう思う。

物語のプロットもいろいろと面白い。
日本神話、竹取物語、陰陽道、それに史実を色々と絡ませ、オリジナリティの
非常に高い世界観を作ってる。

この辺の世界観の肉付けのために、結構いろいろ細かく調べたように、
少なくとも素人目には見える。
この会社のソフトはこれがまだ2作目で、しかも前のソフトからは1年以上
あいているが、この密度ならば無理もないという気がする。

前作「みちのく秘湯恋物語」もシナリオは非常に優秀な出来だったと思う
ので、シナリオの力で勝負できるこの作者達であれば、この形式のソフトを
選んだのは大正解であると思う。

余分な修飾は一切無し。基本的に一本のお話をシナリオの力だけで
「読ませる」ソフト。シナリオ重視のこの会社ならではの正攻法なのだと
思うのだ。

さて、このソフトやっぱり欠点も無いわけじゃない。
シナリオ展開に多少強引な点が無いわけでもないし、言葉が重要な
ソフトであるにもかかわらず、テキストに結構誤字があったりもする。

だけど、それらで引っかかることなくぐいぐいと引っ張って先を読ませて
しまうシナリオの力はすごいと思う。作者が言いたいと表現したいことが
すごく良く見えるソフトだと思う。

派手な演出は一切無い。
アニメーションもプログラムによるごく簡単なものだけ。
もちろん音声なんて一切無い。

だけど物語は非常に魅力的で濃密。

このソフトには、不必要に派手な効果なんて使わずとも、また、CD一枚だけでも
これだけ濃い物語をしっとりと、そしてしっかりと描くことが出来るんだってことを
改めて教えてもらった気がする。

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